「聖フランシスコの祈り」に学ぶ真の平和 校長 古賀 誠子
今日、皆さんと一緒に考えたいテーマは、「平和とは何か」ということです。私たちは「平和」という言葉を聞くと、戦争のない世界や争いのない社会を思い浮かべます。しかし平和は、世界の大きな問題だけではなく、私たちの日常の中にも深く関わっています。家族との関係、友人との関係、クラスでの人間関係。このような身近なところには、平和があると同時に、不和や対立もあります。
ご存じの通り、本校を設立した修道会は、マリアの宣教者フランシスコ修道会です。カトリック教会では、聖フランシスコが亡くなられて800年を記念し、今年は、聖フランシスコの特別聖年としています。そこで今日は、「フランシスコの祈り」を通して、今月のテーマである平和について考えてみたいと思います。この祈りは、「主よ、私をあなたの平和の道具にしてください。」という言葉から始まります。とても短い言葉です、しかし、ここにはとても深い意味が込められています。
私たちは普段、「平和な世界になりますように」「争いがなくなりますように」つまり、「平和を与えてください」と祈ります。一方で、フランシスコはそうではなく、「私を平和の道具にしてください」と祈りました。つまり、自分自身が平和を生み出す存在になりたいと願ったのです。
世界中で愛されている「平和を求める祈り」の精神は、聖フランシスコの生涯そのものから生まれています。聖フランシスコは、13世紀のイタリアのアッシジという町で生まれました。裕福な織物商人の息子として育ち、若い頃は華やかな生活を好み、騎士になることを夢見ていました。しかし20代の頃、近隣都市との戦争を経験し、捕虜となり苦難を経験し、その後は、重い病気を患います。戦争の苦しみや病気を通して、「人生の意味」について深く考察するようになったといわれています。ある日、荒れ果てた教会で祈っていた際に、十字架のキリストから、「わたしの家(教会)を建て直しなさい」という呼びかけを受けたと伝えられています。そして彼は、父から受け継いだ財産や、社会的地位をすべて放棄し、教会を立て直し、町や村に自ら出掛けて行って、貧しい人と共に生きることを決心しました。自分の成功や名誉のためではなく、人々に仕え、福音を伝えるために生きることを選んだのです。
フランシスコは、当時、多くの人が避けていたハンセン病の人々にも分け隔てなく接し、道で出会ったハンセン病患者に施しをし、接吻・抱擁したというのはよく知られている話です。そして、ハンセン病患者の施設に出向いていっては、食事の提供や、看護をおこなったと言われています。また、戦争が続く時代にあっては、敵対する人々の間に立ち、和解を願って自ら行動しました。フランシスコは、平和を口で語るだけではなく、自ら平和の担い手として生きた人だったのです。
祈りの中には、このような言葉があります。「憎しみのあるところに愛を、いさかいのあるところにゆるしを、疑いのあるところに信仰を、絶望のあるところに希望を」私たちの学校生活を振り返ってみて、この言葉もまた、決して遠い世界の話ではありません。
友達とのすれ違い。何気ない一言による傷つき。SNSでの対立。仲間外れや陰口。こうした出来事は、私たちの周りでも珍しくありません。そんなとき、私たちは「絶対にゆるさない、謝ってほしい」と思います。しかし、もし誰もが自分の正しさだけを主張したなら、対立は終わりません。フランシスコは、それだからこそ、「まず自分から愛をもたらそう」「まず自分からゆるそう」と語っています。
さらに祈りはこう続きます。「慰められるよりも慰めることを、理解されるよりも理解することを、愛されるよりも愛することを望ませてください。」私たちは誰でも、人に認められたいと思います。人に理解してほしいと思います。人に大切にされたいと思います。しかし、フランシスコは、まずあなた自身が他者に目を注ぐようにと促しています。
悲しんでいる人はいないだろうか。独りで悩んでいる人はいないだろうか。自分の言葉や行動で励ますことはできないだろうか。このように、相手を思いやる心が生まれるとき、人と人との間に真の平和が育まれていきます。
第2次世界大戦末期に、地上戦となった沖縄(1945年4月1日~6月23日)で、およそ20万人が亡くなりました。その中には、みなさんと同じ高校生もたくさんいます。先日、沖縄のある高校の生徒を対象に、平和教育が行われていました。その時に、インタビューに応じた男子学生が言った言葉が印象的でした。それは、「平和は、エゴをもたないこと、人と向き合うことによって実現する」
現在の世界には、戦争や紛争、貧困や差別など、多くの問題があります。ウクライナ、ロシア、アメリカ、イラン、イスラエルなど、高校生である皆さんは、その現実を前にすると、自分には何もできないと感じるかもしれません。
しかし、聖フランシスコが教えているのは、「平和は遠くから始まるのではなく、自分の心から始まる」ということです。
誰かに優しい言葉をかけること、困っている人に手を差し伸べること、悪口や差別に加担しないこと、相手の話に耳を傾けること。そうした小さな行動の積み重ねが、平和への第一歩なのです。
私たちもまた、日々の生活の中で平和を願うだけでなく、積極的に平和をつくる人になりたいと思います。今日一日、自分は人のために行動しただろうか。友人に優しく接することができただろうか。そして、自分は平和の道具として生きているだろうか。そんな問いを心に留めながら歩んでいきたいと思います。
最後に、わたしの好きな本「そよ風のように生きる」より、ワンフレーズを紹介します。「もし、嫌いな人に出会ったら、主から試されていると思いなさい。そのときこそ愛をこめて接してください。必ず愛が生まれます。」今日もよき日をお過ごしください。

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